異質性と多様性(3)ロビンソンの島

 第一のロビンソンが、ようやく島の海岸にたどりついたのは夕方だった。やれやれ助かったかと思った時、森の中から裸の男が二人現れた。怖ろしげな男たちで、手に弓矢をもっている。ロビンソンが慌てて立ちあがると、見つけた男たちは、何やら叫んで矢をつがえ、いきなり射かけてきた。驚いたロビンソンは、必死で岩陰に走り込んだ。疲労と恐怖で震えながら岩陰からのぞくと、男たちは、しばらく相談しているような様子だったが、やがて森の中に戻っていった。訪れた夜の闇の中で、ロビンソンは考えた。夜があけると、男たちが仲間を連れて戻ってくるだろう。だが、疲れ切ったこの身体で、もう一度海に入って別の島を探すことなどできはしない。イギリス船の仲間たちは、全員嵐の海で死んだ筈だ。嵐で難破するまで、島々を荒らし回り、略奪と殺戮を重ねてきたが、今度は俺が、最後の者としてこの島で殺される番ということか。ロビンソンの頭に、「絶滅の島」ということばが浮かんだ。
 一年後、ロビンソンの死骸もすっかり消えて、島は平和であった。
 第二のロビンソンが、ようやく島の海岸にたどりついたのは朝だった。やれやれ助かったかと思った時、森の中から裸の女が現れた。彼女は、しばらく遠巻きにしていたが、やがて倒れているロビンソンに近づいて、生きていることを確認したのか、急いで森の中に戻っていった。疲れ果てたロビンソンは、そのまま気絶したのか眠ってしまったのか、気が付くと、大勢の裸の男女に取り巻かれていた。森の中の集落に運ばれて来たらしい。ロビンソンが目覚めたのを見て、人々は安心したように笑った。傍らの若い女が差し出した水を、ロビンソンはむさぼり飲んだ。すると女は、つまんだ青虫を、彼の口許に差し出した。彼が驚いて顔をしかめると、女はそれを自分の口に入れ、うまそうに食べた。そしてもう一度、青虫を彼の口に押し込もうとした。だが、彼の抵抗は、何日も続かなかった。ロビンソンは悟ったのである。この島では、この人たちこそが当たり前の人間なのであり、生きてゆくには、努力して同化してゆく他ないのだということを。
 一年後、夕方の風に吹かれている時、ロビンソンの頭に、ふと「吸血鬼」のイメージが浮かんだが、彼は英語でそれを何というのだったかもはや思い出せなかった。そこで、島のことばで、「おまえは吸血コウモリだ」といって、今は妻となっている女の肩を抱き寄せた。彼女が身体に塗りたくっている豚の脂が強く臭った。彼は、いまだにヤモリだけはどうしても食べられなかったし、豚脂の臭いにも辟易していた。同化とはロビンソンの側での日々努力によって維持されていることを、彼は少し不当だと思って、一度、妻に豚の脂をやめてほしいと頼んでみたことがあるのだが、彼女は彼の要求そのものを理解できなかったらしいので、ロビンソンはいうのをやめた。多分、そのうち、この臭いにも慣れるであろう。こうして、島は平和であった。