裁判員制度

「しかし、全くの素人が突然裁判官やれといわれても・・仕事もありますし・・」
「いやいや、そこが誤解されているのです。皆様には、プロの裁判官と同じことをして頂くのではありません。裁判員と裁判官とは違います。難しいことではないのです。お仕事があるのも分かりますから、3日で片づくようにしています。」
「3日だとは聞いていますが。でも裁判って、もともと、そんなに簡単に片づくものじゃないでしょう。」
「ですから、参加して頂く前に、裁判官と弁護士で、論点を整理し、証拠も取捨選択し整理しておくのです。」
「ああ、そうですか。前もって、ちゃんとお膳立てしておいてくれるわけですか。」
「そうです、そうです。ですから、難しく考えないでください。」
「つまり、前もってプロの方々だけで相談して、「これでお膳立てができた、それでは最後に」というところだけ、素人を参加させるというわけですね。」
「まあ率直にいえば、そういうことです。」
「あ〜、なるほど。それならやれそうですね。ちゃんとお膳立てができていて、これとこれとどっちにしますか、というように、2択とか3択とかで聞いてくれれば、答えやすい。」
「でしょう。」
「でも難問の時は、ヒントなんかもあるのですか。」
「それは、プロの裁判官がメンバーに入っていますからね。難問だなあと思ったときは、いくらでもアドヴァイスしながら、話をリードしてくれます。」
「なるほど。それは安心ですね。被告の顔を見て、<ホントにこいつがやったのか、こいつの話は信用できるかどうか>、なんて印象判断は、素人でも十分やれますからね。それで、難しいことは、プロの裁判官がリードしてくれる、と。」
「そういうことですね。」
「なるほど、それなら3日でやれますね。1日目に、どういう事件かを教えてもらう。2日目に、被告の印象なんかを見る。で、3日目に、プロの裁判官のヒントとアドバイスで、2択か3択の中からひとつ選んで旗をあげる。・・・この目安で行けますね。」
「そういう配分ではありませんが、ともかく3日で終わることになっています。」
「でも、裁判って、今まではもっと長く、何ヶ月も何年もかかったのでしょう。」
「そうなんですよ。いままでは、長くかかり過ぎるって世間から強く批判されました。それに、私たちも忙しくて大変でしたからね。何とかしようと思ったのです。」
「といっても、この世の中じゃ、事件や起訴の数を減らすわけにはゆきませんしね。」
「そうなんです。だから、結局、1件あたりの時間を減らすことにしたわけです。」
「つまり裁判をハショろうというか、ちょっといい加減でも目をつぶろうということですね。」
「いえ、いい加減ではありません。もっと効率的にやろうというのです。」
「ま、物はいいようですわな(笑)。でも、素人を裁判員として入れると、時間が減りますか。」
「そりゃ、ぐんと減ります。素人の方は、ややこしいことはいいませんから。2択とか3択とかのお膳立てをすれば、それで選んでくれますよ。意見が分かれそうな時は、プロが話をリードすればいいわけですし。」
「でも、公判前に、弁護士とやりとりしながらお膳立てするんでしょう。結局全体の時間は同じじゃないですか。」
「いやいや。公判でやりとりするのじゃなく、いうならば<話し合い>ですからね。手間はぐっと簡単になります。」
「ここだけの話、公判でなければ、ある程度の<取引>もできるというわけですか。」
「いや、そんなことは絶対ありません。」
「まあ、ありますとはいえませんわな(笑)。」
「そういうことはありません。裁判の迅速化も、裁判への市民参加も、弁護士の方々がずっと要求されてこられたことですから、必ずご協力頂けますよ。」
「ところで、警察が捕まえて検察が起訴するわけですが、「検警一体」なんていわれますよね。」
「それはまあ、ある意味当然でしてね。」
「で、裁判所と検察とはどうなんですか。先日の新聞に、日本では一体化してるって書いてありましたが。」
「そんなことはありません。ただまあ、起訴されると有罪になる率は高いですね、日本では。」
「警察、検察、裁判所の流れが太くて、<捕まると、起訴されて、有罪になる>、という率が高い、というわけですな。つまり、公判までに、もう大きな流れができているわけですね。弁護士も、公判という公開された場所で抵抗することは、3日しかできない。われわれ素人の裁判員も、お膳立てができた最後のところで参加するだけ。」
「いや、それはですね・・」
「いやいや、私は文句をいってるのじゃないですよ。大体、警察は悪い奴を捕まえるわけですね。そんな奴は起訴されて当然だし、有罪判決を受けて当然ですわ。警察、検察、裁判所、いままで以上に太〜い流れができて当然じゃないですか。」
「いや、それはですね・・」
「弁護士というのは、弁護するのが仕事ですからね。どんな悪い奴でも弁護する。それは結構ですが、やりすぎるとムダだし、世間も納得しませんわ。公判での弁護は、3日もあれば十分でしょう。」
「ま、公判は、3日になるわけですね。」
「もし3日を越えそうになれば、「この被告がやったに決まってるのに、何ごちゃごちゃいうのかね。こっちはもう仕事休めないんだから、いい加減にしろよ」、という暗黙の圧力がかかるでしょうね。」
「う〜ん。ま、正直、そうことも期待できますかね。でも、そういう警察、検察、裁判所の一体化が狙いなのではなく、市民の方々に参加して頂くことが狙いでして。」
「建前は、もちろんそうでしょうとも。ほんとの狙いは、いわなくても分かっていますよ。とにかく、前もってキチンとお膳立てしてくれて、プロがヒントをくれる、議論もリードしてくれるっていうんでしょう。素人が出す結論は、決まってますよ。もちろん私も、もし選ばれれば、せいぜい、おカミに協力します」。
「ありがとうございます。市民の方々がみなさん、そういうお気持ちになって頂ければありがたいですね」。