ライト(7)6月事件

 ともかく、二つの法のさらにメタレベルの法と法廷がない限り、二つの法それぞれが自らの上位性を主張するでしょう。
 さて、しかし、サルトルが言及したのは、フランス1848年の、いわゆる6月蜂起で、極く簡単にいうと、2月革命を成功させた社会層の中で「持てる者」と「持たざる者」の対立が激化し、臨時政府に対して蜂起した労働者たち失業者たちが大量虐殺された、という事件です。
 なのですが、ここでちょっと「6月蜂起」の説明をしておきましょう・・・
 2009年、民衆の怒りによって、長年の自民党支配が倒され、革命的な政権交代が起こります。民主党中心の新政権には、自民党打倒にタッグを組んだ社民党も参加し、運動家辻○氏が入閣します。氏は、早速最大の社会問題に取り組み、画期的な「仕事庁」計画を提案して、政府に採用させます。こうして、消費者庁に続いて、仕事庁が創設され、辻○氏が初代長官に就任します。だが、膨大な職員を抱え年8億の賃貸ビルを庁舎とし莫大な運営費を確保する消費者庁と全く異なり、仕事庁はといえば、スタート時の職員は長官たったひとりだけ。その代わり長官は、翌日から、猛烈な勢いで、新職員を採用しはじめます。失業者浮浪者ホームレス・・・希望者全員、登録即採用、さしあたり年200万円の初任給。驚いて問う記者団に辻○長官は説明します。
 「一次計画では50万人を採用します。これまでの失業対策事業は、全て、机の上の悠長な作文でしかありませんでした。仕事庁は、ただちに端的に一挙に、失業問題を解決します。すなわち、失業者を、仕事庁で採用するのです。」
 −どういう基準で採用するのですか。
 「どういう基準もありません。職のない人は誰でも、来て登録すれば、即採用です。」
 −そんな無茶な。誰でもということになると、ホームレスの人もいますし、字の読めない外国人も含まれているんですよ。
 「もちろんです。仕事のない人は、誰でも採用です。」
 −そんな無茶な。第一、財源はどうなるのですか。
 「一次計画の50万人に年200万円なら、総額年1兆円ですね。例えば評判の悪い高速無料化を一時延期するだけで、まだまだゆけます。二次計画以降もどんどんやりますよ」。
 −そんな無茶な。大量の失業者を公務員として採用して、一体仕事は何をするのですか。
 「何をするのか、ですか? さしあたり、それを考えるのが第一の公務です。で、何かしたいことがあれば、資金をつけて、どんどん起業してもらいます。そのうち仕事庁は、第二のトヨタ、第二のソニーを抱えることになりますよ。そうすると、全員給料も大幅アップできるでしょう。日本経済も万々歳です。」
 ・・・・・ということになるのですが、誠に残念ながら、その後はうまくゆきません。失業者対策としては、大変素晴らしい一挙解決プロジェクトだったのですが、なかなか起業の方がは順調には育たず、第二次、第三次と採用者が全国に拡がってゆくにつれて、財政負担がかさみ、遂に民主党政府は、この画期的な仕事庁事業の廃止を決定するのです。ところがその決定に怒ったのが、仕事庁全職員。「俺たちを、私たちを、もとの失業者にするのか、ホームレスに戻すのか。」と、庁舎に立てこもります。それに対して民主党政府は、辻○長官を閣外追放。立てこもりの職員に対して、機動隊を差し向けます。だが、全国の元失業者の反抗はすさまじく、遂には自衛隊が出動し、ひるまず立ち向かう元失業者に発砲して、多数の死者を出すのが、来年の6月。これが、後に、「6月蜂起」と呼ばれることになる事件の顛末です。