顔かたちを変えて健康増進 

 病院の経営難というニュースが多いなか、「美容整形」とか「美容外科」という業界は、よほど儲かっているのに違いありません。「大企業ではないのにTV-CMだけは大企業なみというような業種は、騙して儲けているのだから気を付けろ」、と、最近も口の悪い方が書いておられましたが、どうなんでしょうか。もしもそうだとすると、儲かっているからCMをうつというのは逆で、宣伝することで儲けているわけでしょうが。
 市橋とかいう凶悪事件の容疑者は、見るからに特徴のある顔でしたが、その顔を整形したらしいと、ニュースが伝えています。現場で取り逃がした警察は、顔整形の可能性を予測した手配をしていなかったようで、いつもの後手を重ねています。
 それにしても、かつて話題になった福田某という逃亡女性の時には、知らずに手術した整形医が責任を感じて何百万円かの懸賞金を出したようですが、しかし今回は、素人にも刷り込まれているあの顔ですからね。格別の手配がなかったとしても、顔面のプロが、手術の前にマジマジと「診察」した筈ですし、少なくとも最初の医師については、知らずに手術したということは信じられません。万事承知でメスを入れた、闇のプロがいるのでしょうか。
 そういう勘ぐりを否定したかったのでしょうか、今度の件では、業界医師がインタビューに応えて、こんな発言をしていました。「病気ではありませんからね。病気の場合は保険証の確認ということがありますが、病気じゃないので、自由診療になります。そうすると、確認のしようがありません。どんな名前や住所を書かれても何を話されても、詮索はできません。患者さんとの信用関係が大事ですから」。
 大人げない物言いで気が引けますが、例えば、病気の患者の生命を救うために日々懸命に努力されている日本医師会の方々は、「病気じゃない」人を自分たちと同じく患者といい、「病気じゃない」人の身体にメスを入れることを自分たちと同じく手術といい、「病気じゃない」人だからと保険点数の制約なく自由に大金をとる業界を、どのように見ているのでしょうか。
 もちろん、もともとのこの科の「治療」が、機能面だけでなく、いわゆゆる「美容」面にもわたることは理解できます。病気や怪我等による後天的な損傷だけでなく生来のものであっても、患者の生活や人生を救う意味で、「美容」上の施術が「治療」である場合がもちろんあるでしょう。
 しかし、TVでインタビューされていた医師が、責任を逃れようとしてか、「自由診療なので、確認のしようがない」といい、その理由に、「病気じゃないから」ということを挙げておられたことが気になります。(上記の発言記憶はもちろん正確ではありませんが、「病気ではない」といういい方は、はっきり聞きました。)>
 いまさら野暮なことをいって恐縮ですが、確かに、整形する女優さんは、たとえ「ビョーキ」ではあっても、「病気」ではないでしょう。
 野暮ついでに、日本医師会のHPにある『医の倫理綱領』というのを見てみますと、冒頭に、「医学および医療は、病める人の治療はもとより、人びとの健康の維持もしくは増進を図るもので、医師は責任の重大性を認識し、人類愛を基にすべての人に奉仕するものである」、と謳われています。ちなみに、その後に、守るべき倫理綱領6項目が挙げられていますが、最後の項目は、「6.医師は医業にあたって営利を目的としない」、です。
 美容整形の全ての施術もまた「医療」であるなら、それもまた、「病める人の治療」および「人びとの健康の維持もしくは増進を図るもの」だということになります。だが、いわゆる美容整形(の一部もしくは大部分)の客は、「病気ではない」らしいですから、残るは「健康」の方で、つまり、鼻を高くしたりバストアップしたりすることで自信を得て「健康が増進」される、ということなのでしょうか。あるいはまた、医師の方は「営利を目的としない」のですが、女優などの場合は、「営利を目的とする整形」によってより多く稼げるようになり、それがすなわち「健康が増進」する、ということなのでしょうか。コジツケに聞こえるかもしれませんが、ま、正直、何でもありということですね。
 ということで、寛容な一般市民は別に何とも思っていないようですが、りっぱな倫理綱領を掲げる日本医師会の方々はどう思っておられるのでしょうか。・・・などと書きましたが、それも野暮な話で、昨年見直された医療機関の標榜診療科名の中にも、例えば「美容外科」という立派な「診療科名」がちゃんと入っています。
 まあ、そういう時代ということなのでしょう。それにしても、歯を一本抜くのでも痛いのに、本当かどうか知りませんが、話題の矢田亜希子などは、ビョウキはともかく「病気ではない」のに、6時間にも及ぶ手術を受けたそうじゃないですか。いやあ皆様よくやりますねえ。そんな皆様が千客万来、美容医業界は、「営利を目的としない」のに、結果的にえらく儲かることになっているのでしょう。
 ということで、疑問がとけました。おそらく市橋容疑者と知りながら、「病気ではない」彼の顔を整形した美容外科の医師は、通報するという市民の義務よりも、客の「健康を増進」するという、医師の務めを優先させたのでしょう。確かに、逮捕や訊問ましてや死刑や懲役刑が「健康」によくないことは、間違いありませんからね。