昔の時代 2-1

 やれやれ。・・・今の話はしばらくやめることにする。
 また、昔を散歩でもしよう。
 もう3年も前になるが、同じことばで書き出したことがある。「1-1:明治30年または1897年」という題で始めた駄文(→ここ)なのだが、行く先のないまま2ヶ月漂流を続け、33回で中断している。
 その時、「次は1911年にでもしようかと思っている」と書いているが、今回は1913年から始めることにする。どうせ周辺を彷徨うのであるから何年でもいいのだが、韓国併合大逆事件辛亥革命、と並べるだけでも余りにも重い。来月某所で少し話をすることになっている都合もあって、10年11年は通り過ぎ、1913年という中途半端な年から始めることにしよう。年号は明治から大正に替わっており、今書いたように、清国は消え韓国も消えている。
 さて、前回は、「森の都」と「鎮台」ということで熊本と仙台を並べることから始め、鉄道の旅の話へと移ったと記憶している。今回は、さしあたり「醤油」である。
 英語でsoy sauceと呼ばれる醤油は、いまや世界的な調味料となっているが、すでに17世紀には、オランダ東インド会社によってヨーロッパに輸入され、フランスの宮廷料理でも使われて、あの『百科全書』にも記述があるという。
 「醤」すなわち「ひしお」は、もうひとつの文字「醢」がよく表しているように、塩漬け発酵食品であって、そういうものを食べる文化があれば、そこから浸み出る液を「旨味」調味料として使うこともまた、極く自然に発生し定着するだろう。知られているように、ナンプラーをはじめとしてアジアには広く発酵調味料文化があるが、そのルーツは遙か昔にまで遡れるようだ。
 しかし食品のルーツとか起源ということになると難しい。昔タモリ山下洋輔らがラーメンのルーツで遊んでいたことがあったが、中国の麺がルーツだといえば、引き延ばす前まで辿って元は塩団子だともいえるだろうし、むしろ具入りスープの線を追うべきだといい出せば、最後は手掴みではなく器で物を食べ始めたのが最初だというとんでもない起源にまで遡れる。ということで一定の限定をつけて、ラーメンは日本で発明された、少なくともアレンジされた、独特の麺料理だということに一応落ち着いているようだ。
 というわけで、醤油もまた、大豆と麦を麹で発酵させて作られる現在の姿に絞れば、日本で生まれ日本で育った調味料だということになっている。