聞こえてきた会話

 ごくたまにしか行かない店なのですが、そこで聞いた話です。実際には3人での会話だったのですが、中の一人の人がユニークだったので、反対したりからかったりしていたあとの二人ははずして、記憶をもとに、その人の発言を独り言に再構成してみます。
 「驚いたねえ、みんな宮崎牛とか何とか肉とか、しょっ中食べてるの。俺なんかそんな高級肉食わないから、なくなっても一向に構わないけどねえ。現地の人は大変だろうし、ビール飲ませてもらって箱入り娘みたいに大事に育てられた牛の、「柔らかくてジューシー」な霜降りメタボ肉ってのは、確かに旨いんだろうけどね。『美味しんぼ』じゃ、ケージ育ちの「水っぽくて柔らかい」鶏肉を「ジューシー柔らか鶏」なんてもてはやすような、そんな最近の風潮を嘆いていたけどね。原っぱ駆け回ってミミズとか虫とか草とか喰って育った鶏の、噛み応えのある肉がホンモノだってんだけど。でも、固い肉が美味いんだなんていって感心されるのは、マンガの中の変わり者の食通だけでね。普通はやっぱり貧乏人のひがみって思われちゃうよ。俺は別にひがまないから、柔らかいメタボ和牛は美味いんだろうとは思うけどね。どうせ、んな高い肉なんて食わないから、関係ないってだけのことで。
 そういや、ひところマグロが食えなくなるって大騒ぎしてたんで、そうかねと思って新聞みたら、あれも話が違ったね。マグロは相変わらず食えるんだけど、本マグロのトロが食えなくなるかもしれないという話。世界中の本マグロの80%は日本人が食ってるてんだけど、誰がどこで食ってるんだか。あの話も、俺なんかには関係ない話だったね。
 それで思い出したけど、食糧自給率って奴、あれは農水省の陰謀だってね。自分たちの部署がなくなると大変だから、「自給率が低い、国民の食が危い!」ってのを錦の御旗に、何だかだ事業を作っては予算を獲ってるらしいよ。聞いた話だから、ホントかどうか知らないけど、ありそうな話だよね。とにかく、「自給率」ってのには、本マグロのトロなんかも入ってるわけさ。俺んちなんか、専ら近場で獲れる魚と地元の野菜で米の飯食ってるから、国産食糧率すごく高いよ。もちろん豆腐とかうどんとかも食うから、国産百%じゃないけどね。
 マスコミもあれだよ。「食糧自給率が低い。日本の食卓が危い」って書いてるから、輸入モノは食わない方がいいのかなんて思うと、次の日に、「クロマグロ漁獲規制か。日本の食卓が危ない」っていう大見出しを打つんだからね。一体どういう了見なんだか。
 ま、俺のような貧乏人には関係ない話ばっかりで。」