「可哀想」も金次第(続き3)

 「『ザ・コーヴ』ってんだから、あそこの入り江はヒドい!カワイソー! ってなもんかね。まあ、世の中単純な善意と純情なんてないから、裏は裏であるのだろうけれど。
 待ち受け画面に「うちの蜥蜴」を入れてるようなヤツなら、本人が変人を自覚してるに決まってるから、対応が楽なんだけどね。「ほら、うちの犬、カワイイでしょー!」って見せられれば、ま普通は、「ほんとだねえ〜」と合わせてしまう。そしたら「お願い!」って紙を渡され、見ると「補身湯(犬汁)はヒドイ!」って署名用紙だったりする。で、どうするかって? う〜ん、面倒だから署名するかもしれないな。「お願い!」、なんていわれるのには弱いんだよ、俺は。
 でも、いやそれはいかんと思いとどまり、面倒くさいけど話してみたら、善意と純情だから案外素直な子だったりしてね。「う〜ん、そっかあ。そういえば、異文化理解って単位とったっけ」、なんてことになったりする。
 ・・・アメリカじゃさ、毎日ものすごい数の牛を屠殺してるだろ。そんな屠殺場に、こっそりカメラ持ち込んで映画撮ったら、すごい映画ができるよ、きっと。牛たちが、悲しそうな鳴き声を上げながら押し合いへし合い追い込まれて来て、次々と脳天に電気銛を打ち込まれ、血だらけで皮を剥がれ吊され切り刻まれてゆく。
 ・・・やめてよ、そんな話。
 ・・・ところで、ヒンズー教徒にとっちゃ牛は神聖な動物だって、聞いたことあるだろ。シバ神の乗り物で神の使いとされてるらしいじゃん。そんなヒンズー教徒の人たちが、屠殺場の映画を観たらどう思うだろう。
 ・・・そっかあ。そうねえ。私たちが犬がカワイソウ!イルカがカワイソウ!っていうのと、ヒンズー教の人たちが、牛がカワイソウ!っていうのは、おんなじかもしれないわねえ。私はベジタリアンだからお肉食べないけど。
 なんてことになって、で、どうなるかというと、彼女はいうんだよ、きっと。
 ・・・でもさあ、犬やイルカがカワイソウ!っていう私の気持ちは、ホントにホントなんだからね。ヤメテ!っていうのもホントの気持ち。だから、ヒンズー教徒の人たちも、告発映画作ればいいのよね。
 『ザ・ホイホイ』、研究所でゴキブリが苦しみもがく姿を隠し撮りして残酷な商品を告発する映画。『ザ・ファクトリー』、アメリカの屠殺工場を隠し撮りした告発映画。
 と、書いたがウソである。そんな映画など、作られる筈がない。
 結局、可哀想も金次第。」