漱石 1911年の頃 34:ハリツケと給料1

 一ヶ月空いてしまいました。
 近隣諸国にケンカを売って緊張を作り出し軍事強国への道を当然と思わせる一方、津波原発事故をそっちのけどころか「ダシ」にしてTOKYOゴリンを招致して人心を浮つかせる。そんな作戦に乗って、世の人々がみんな浮かれているとは思いたくありませんが、どうなのでしょうか。戦争への反省が消えて軍事防衛が強調され、福祉増税だといわれていた筈が、福祉が消えて法人税減税を伴う景気刺激増税が強調されても、支持率が下がらないのですから、増長もするでしょう。
 ということで、首相は、ゴリン招致に向けて大見得を切りましたが、「汚染水は完全にコントロールされております」というのは、湾内から今のところ出ていない(注)という意味だとか。「コントロール」にそんな意味があるとは知りませんでした。今後、ことばの使い方を変えねばなりません。「爆発した衛星は完全に機能を停止し、管制室からの指令電波も全く効かない危険状態にありますが、地球の引力圏内で回っており、外へは出ておりませんので、しっかりコントロールされております」。「ピッチャーのボールは、きちんとコントロールされていましたね。大暴投でランナーが二人も帰りましたが、ボールはグラウンドを転々としただけで、球場内からは出ていませんからね」。
 
 (注):実際には、「湾内から全く出ていない。今後も絶対出さない」、という大見得自体が、既にゴマカシのようです。大体海水は自由に出入りしているわけですから、誰が考えてもいい加減な発言ですが、それだけではありません。こんなところで何ですが、重要なことなので、おしどりマコさんの東電への質問から、かいつまんで引用させて頂きます。ただし、要点だけですので、詳細は、是非 『デイリー・マガジン9』の「おしどりマコ・ケンの脱ってみる?」[→こちら]を直接ご覧下さい。
●9月9日東京電力定例会見
 おしどりマコ「 〜 で、港湾内でブロックされているかどうかで、東京電力安倍総理が同じ認識であることを確認したとおっしゃっておられたのですが、これあの、港湾外の5号機、6号機の放水口付近のモニタリングで、汚染水の事例があってから、多少値が動いているのですが、これも別に特に汚染水の影響では無いという評価なんでしょうか。」
 東京電力今泉氏「あのー、まあ、私どもとして海洋モニタリングの結果を踏まえると、告示濃度より低い、ということで先ほど申し上げた見解を持っているということでした。」
 おしどりマコ「あ、告示濃度より低いけれども「まあ影響はある」ということですね。 〜 」
 東京電力今泉氏「あ、「影響は少ない」と。」
 おしどりマコ「影響は少ない。」
 東京電力今泉氏「はい、という風に私どもは考えてるという事です。」
●9月11日東京電力記者会 
 おしどりマコ「相澤副社長にお願いいたします、 9月10日付で「汚染水対策本部で社外専門家としてレイク・バレット(LAKE H. BARRETT)氏(元米国原子力規制委員会(NRC)、元米国エネルギー省(DOE)を招聘することを決定」とリリースされておられましたが 〜 」〜
 東京電力相澤副社長「これは東京電力単独の決定であります。」 
 おしどりマコ「 〜 レイク・バレット氏は9月9日のBulletin of the Atomic Scientists というジャーナルに 〜 「海への汚染水の放出を含める必要」があると明言されておられます 〜 、それ以前の 〜 オピニオンを見ましても「汚染水の海洋放出」というのをnew planとして強く意見として持っておられますが、この方を東京電力が単独で招聘されたとして、これは汚染水を海へ放出するということを視野に入れて、そのための社外専門家なのでしょうか。」
 東京電力相澤副社長「いや、全くそういうことではありません。あの、えーーーーーーーーーーーーー。 〜 今後、まあ色々とご指導あるいは議論をさせていただく中で、そういった問題もいろいろ検討していくことになるかもしれませんが、放出するために用意したということでは全くありません。」
 おしどりマコ「 〜 レイク・バレット氏のジャーナルやオピニオンその他を探しましても、汚染水放出のご意見以外という物を調べることができなかったのですが。では具体的に、レイク・バレット氏は、福島第一原発の汚染水問題に関してどのようなプランを他にお持ちなのでしょうか。」
 東京電力相澤副社長「まだ、その本人と詳細な議論打ち合わせをしておりません。 〜 今後、〜 彼のいろいろなアドバイスをいただきながら今後の方策をより深めていきたいと言うふうに考えております。」
 おしどりマコ「 〜 では先ほど、相澤副社長の現状認識として「総理の発言はともかく」と言うお話で「発電所周りは変化がない」とNDもしくは「告示濃度100分の1、200分の1以下だ」とおっしゃっておられましたが、これは5、6号機放水口北側の測定値も含まれているのでしょうか。ここは、港湾の外の海の測定点として東京電力がモニタリングされておられますが、今年の汚染水の漏洩の事象があってからストロンチウムが再び上昇して、5.8ベクレル/Lまで出ております。告示濃度は、ご存知の通り30ベクレル/Lですのでこれは告示濃度の5分の1、6分の1等量になるのですが、先程のご発言の中にこの測定点は含まれておられたのでしょうか。」
 東京電力相澤副社長「そういった意味ではその測定点は含まないつもりで発言致しました。それは、そう言った意味で正確ではなかったかもしれません。」
 おしどりマコ「これは港湾外ですが発電所周りでは無いということですか。」
 東京電力相澤副社長「えー、これは港湾外ではありますが、海洋というよりはかなり近傍になっておりますのでそういった意味でその点は除外して私申し上げました。」
 これも驚きの日本語です。「確かに昨年比の物価指数が100を越えたものも見受けられますが、それらは「100の近傍」になっておりますので、それらは除外して、「100を越えたものは全くない」、と私申し上げました」。「「あと少しで勝てた試合」は「勝ち」の近傍なので、それらを除外して、わがチームは無敗だ、と私申し上げました」。
 
 そんなわけで、どうでもよい昔のことを、のんびりと書いているような気分になかなかなれませんが、ともかく終わると書いたのですから、終わりましょう。
 今回は、韓国併合大逆事件の直後、11年に和歌山でした講演「現代日本の開化」というタネから、多少枝葉を拡げてみたのでしたが、大した花も咲きませんでした。結局のところ漱石という人は、西洋に遅れて無理にも強権強国の道をひた走り戦争を重ねる「大日本帝国」の歴史も、さらには西洋の支配と共に進むあくなき「開化」という世界史そのものをも、手放しで賞賛などしていませんが、かといって時代と歴史への癇癪は、ほとんど家庭内暴力に集中的に発揮、発散されたのか(^o^)、肝心の言葉や行動はぬるく、はっきりしません。
 ということで、この駄文も、恐縮ながら、だらけたままで終わりです。おそらく、同時代の小説類がほとんど消える中、今でも面白く読める小説を何本も書いた「文豪」への私の眼が、大甘だったからなのでしょう(^o^)。
 ただ、そういうと、ひとつだけ、残して置いた問題を処理しなければならなりません。はじめの方(→ここ)で触れましたが、06年後半に書かれた、次のような書簡には、「ぬるい」とはいわせない迫力があるからです。
 例えば、06.7.2.高浜虚子宛。
 世界総体を相手にしてハリツケにでもなつて、ハリツケの上から下を見て、此馬鹿野郎と心のうちで軽蔑して死んで見たい。尤も僕は臆病だから、本当のハリツケは恐れ入る。絞罪位な所でいゝなら、進んで願ひたい。
 06.10.23.狩野享吉宛でも、
 僕は、世の中を一大修羅場と心得てゐる。さうして其内に立って花々しく打死をするか、敵を降参させるか、どっちかにして見たいと思ってゐる。敵といふのは僕の主義、僕の主張、僕の趣味から見て、世の為めにならんものを云ふのである。世の中は僕一人の手でどうもなり様はない。ないからして、僕は打死をする覚悟である。
 問題は、「打死をする覚悟」で華々しく戦おうという相手は誰かということですが、「僕の主義、僕の主張、僕の趣味から見て、世の為めにならん」この敵は、外に韓国を併合し内に幸徳らを縊り殺す強権ではありません。「主義」「主張」と並んで「趣味」とあるように、文学上の「敵」です。
 しかも、彼は、文学上の「敵」に負けるとは思っていないのですね。前にも引用しましたが(→ここ)、06.10.22.森田草平宛書簡。
 功業は百歳の後に価値が定まる。百年の後百の博士は土と化し千の教授も泥と変ずべし。余は吾文を以て百代の後に伝へんと欲するの野心家なり。〜 余は隣り近所の賞賛を求めず天下の信仰を求む。天下の信仰を求めず後世の崇拝を期す。此希望あるとき余は始めて余の偉大なるを感ず。
 今回は、おかしな構成になりましたが、ここまでにします。(続く)