2007-01-01から1年間の記事一覧

 格差の時代

選挙の季節である。東京では、外山恒一氏という、失礼ながら泡沫候補が、「革命家」と称して出馬した。You Tube で演説を見たが、独特の声で「少数者諸君!」と呼びかけていた。昔の「革命家」が呼びかけたのは、プロレタリアートという「多数派」であったの…

 1897年-23:山高帽

『金色夜叉』の道草が過ぎたが、とにかくそんなわけで、「活動紙幣」が世の中を動かす「実業の時代」になりつつあった。 ただ、では「実業の時代」とはどういうことか、ということになると、結構面倒なことになる。例えばこの年1897(明治30)年、動力使用の…

 1897年-22:活動する紙幣

寄り道ついでに、1905-6年の『吾輩は猫である』も覗いておこう。 ご承知のように、「猫」が活写するのは、中学の英語教師である苦沙弥先生とその友人や書生の楽しむ高踏会話の世界であるが、ここでも、世俗世界を代表する金田一家が対比的に描かれる。 「会…

 1897年-21:実業の時代

そこで、もう一度『金色夜叉』に戻る。 先にみたように、『金色夜叉』は、地位より金が、官吏より資産家がものをいうようになりつつある時代の流れを写している。鴫沢のような官吏を「知れたもんんだ」というのは富山である。だが、富山の家は「資産家」とい…

 1897年-20:実業家

もう一本横道に入って、『金色夜叉』の10年前と10年後を見てみよう。 自意識が強く、学歴も教養もありながら、否むしろあるが故に、自尊心が邪魔をして、世俗世間と折り合いをつけることができずに、その結果、心理的な自立希求と生活面での非自立との間で悩…

 1897年-19:資産と美貌

小説自体が問題ではないので、並べることにする。 富山唯継は、銀行の創始者で市会議員という「下谷区に聞ゆる資産家」を父にもち、その家督を継ぐ者である。 一方、間貫一は没落士族の遺児で、父に恩のある鴫沢に引き取られ、彼のおかげで、やがて学士とし…

 1897年-18:帝国大学

「類多き学士風情」・・・。なるほど帝国大学は、毎年「学士」を輩出する。例えば、連載開始のこの年1897(明治30)年、帝大卒業生は280人であった。(ちなみに、卒業後の最多は大学院進学など研究進学関係で合わせて73人、次が官吏の69人で、確かに「末は博…

 1897年-17:学士風情

「金色夜叉」にこだわり過ぎたが、あと少しだけ。 この小説は、読者の強い要望もあって何度も中断と再開を重ねながら、5年ほども連載されるが、結局、紅葉の死によって未完で終わり、謎が残ったままとなる。おそらく読者が一番知りたいのは、ヒロイン宮は本…

 1897年-16:学士様

書いたと思うが、漱石は松山中学で、月給80円。校長が60円だから、破格の初任給であった。 しかし、1918(大正9)年の大学令までは、「学士」と呼ばれるのは帝国大学の卒業生に限られており、しかも帝大はまだ他にはなかった。帝大出の学士様が松山まで赴任…

 1897年-15:弊衣破帽

ところが、さらに、第一から第五の高等中学校は、1894年の高等学校令で、3年制の高等学校に改組される。いわゆる「旧制高校」ナンバースクールである。(前述の通り、漱石が五高に赴任したのが96年。なお、書き忘れたが、官立高等中学校は2年制であった。…

 1897年-14:高等中学校

ところが、「金色夜叉」の書き出しはこうである。 「未だ宵ながら松立てる門は一様に鎖籠(さしこ)めて、真直に長く東より西に横はれる大道は掃きたるやうに物の影を留めず、いと寂くも往来の絶えたるに・・・」。 美文だろうが、古めかしい。 このような擬…

 1897年-13:金色の夜叉

しかし、復讐心だけでは、黒鉄の船は造れない。全国に鉄道の網目を伸ばしつつ、巨大な製鉄所を建設し、その上軍艦や大砲を増強する・・・財政支出が急増しつつあった。というか、それが可能になっていた。 何よりも、清国からもぎ取った、約3億5,600万円と…

 1897年-12:軍艦マーチ

若い人は別として、「軍艦マーチ」といえば、パチンコ屋を思い浮かべる人が多いだろう。あるいは右翼の街宣車とか。実際には、軍艦マーチこと「軍艦行進曲」は、外国でもかなり有名で、曲(瀬戸口藤吉)自体の評判も悪くはないのだが、これが作られたのも、…

 F・ノート20

つけ足し。 公園テント住人を、「ホームレス」あるいは「野宿者」と呼ぶ背景には、<ホーム/野(ストリート)>という対比構図がある。彼らは<そと>で暮らしている。<公共の>場所で寝ている。 法律上は公有地でも長年占有しており、テントには屋根があ…

 1897年-11:死と変節

無計画にはじめ無計画に散歩するつもりなのだから仕方がないが、しょうもない横道に入り過ぎた。もっとも本道があるわけではないのであるが。ともかく、再び、三木とチャンドラ・ボースの生まれた、1897(明治30)年に戻ろう。 先に熊本からの旅で名前の出た…

 F・ノート19

もう一度書く。 公園テント住人の排除に反対する人たちは、例えば、公権力の側の者らが、住人の留守中にテントや中にある家財道具までを壊したり焼却したりすることに、もちろん憤慨する。 施設に入れといわれても、数ヶ月後には退去を要求されるし、入居条…

 1-10:鉄道の時代

ついでにもうひとつ。三四郎が名古屋で途中下車するシーン。 「大きな行李は新橋まで預けてあるから心配はない。三四郎はてごろなズックの鞄と傘だけ持って改札場を出た。」 「ズック靴」も死語となって「スニーカー」になったが、「ズック」は、スニーカー…

 1-9:汽車の旅

「三四郎」が出たついでに、またまた横道に入ってみよう。汽車のことである。 「女とは京都からの相乗りである。 駅夫が屋根をどしどし踏んで、上から灯のついたランプをさしこんでゆく。 三四郎は思い出したように前の停車場(ステーション)で買った弁当を…

 1-8:三四郎の旅

それから20年後。日清、日露の対外戦争を終えた1908(明治41)年の秋、「朝日新聞」に漱石の『三四郎』が連載される。 周知のように、冒頭は、三四郎が上京する汽車のシーンである。 漱石先生の読者サービスで、彼は、京都から乗り合わせた女と、名古屋の宿…

 1-7:汽車以前

熊本にこだわるわけではないが、あとで比較するために、ここでまた横道に入って、少し前の時代の旅を見ておこう。例えば、蘇峰と蘆花、熊本が生んだ徳富兄弟の旅である。(中野好夫『蘆花徳富健次郎』より) 先ず、1878(明治11)年夏、熊本から京都への旅。…

 1-6:旅と戦争

さて、漱石が熊本に到着した4月13日から、数日遡ろう。 繰り返すが、彼は、前任地松山から来たのであった。松山を出たのは10日である。松山港から船に乗り、先ず宇品へ渡った。 宇品港は広島である。ただし、そこから汽車には乗れない。広島から東へは行け…

 1-5:漱石の伝説

ちょっと横道に。 漱石が熊本を「森の都」と呼んだ、名付けた、という記述は少なくない。熊本市自身も、「熊本市は、文豪夏目漱石から「森の都」と謳われ・・」、と書いている。 だが、ちょっと気になることがある。 おそらく漱石が熊本に第一歩を記してから…

 1-4:野蛮な不浄の地

ところで、このとき漱石は、前任地の松山から熊本へ来たのであった。 漱石ゆかりの地といえば松山を挙げる人は多いと思う。少なくとも熊本よりは。 不精者の私は、どこへ行っても、折角来たのだからと名所や史跡を訪れるといったことは殆どしない。行き先の…

 1-3:森の都

ところで、仙台の鎮台は、1871(明治4)年に全国に配置された四鎮台のひとつだが、あとの三つは、東京、大阪と、そして、田原坂の攻防を含む西南戦争最大の激戦地となった熊本鎮台である。前述のように、やがて88年の改組で北海道を除く全国が6軍管区に分け…

 1-2:杜の都

「もりの都」と聞くと、仙台を挙げる人が多いだろう。「もり」はもちろん森であるが、仙台の場合は、普通、「杜」と表記される。「杜の都、仙台」、というように。 藩祖伊達政宗の植林奨励策以来というから、仙台は古くから、豊かな屋敷林など森林が美しい城…

 1-1:1897-1945

昔を散歩しようと思う。 とりあえず、明治30年は1897年である。 奇しくも、共にその年の1月に生まれ、そして共に1945年日本敗戦の直後に不慮の死を遂げた、2人の人物がいる。三木清とチャンドラ・ボースである。 三木清は、兵庫県の龍野市(といっても今は…

 野鳥との遭遇2

で、午後、谷川沿いの山道を走っていると、峠茶屋風蕎麦屋があったので入った。 座布団に座って蕎麦を待っていたのだが、場所柄ゆったりと作ってくれている様子なので、立って大きなガラス窓の前に行き、眼下の清流眼前の春山を眺めていると、突然バサと音が…

 野鳥との遭遇

それほど深山に分け入ったのではないのに、1日に2度も、野鳥と異常接近した。 はじめは、とある史跡を探して、細い細い山村の道を車でゆっくり移動していた時のこと。両側に小さい果樹園や野菜畑や家屋が並ぶ道は、車1台がやっと通れるほどの幅なので、歩…

 F・ノート18

公園のテントは「ホーム」でなく、そこで暮らしても、野っ原で寝ているに等しい。・・・それでは、ホームとは何か。 さて、中断前に、新たなモノが出現したのであった。<採って><食べる>隙間に出現した、例えば手の中の木の実。それは、私が<採った>モ…

 F・ノート17

中断してしまった。今回は、番外編で。 公園テント村住人は、普通、「ホームレス」と呼ばれる。支援者や住人自身も、使うことがあるかもしれない。何しろ「ホームレス」は、辞書にも載っている一般名詞なのだから。 大辞泉:住む家をもたない人。公園や駅・…